専門家インタビュー

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防災

立地メリットを生かした災害復興。進化する災害に備え、防災も進化を!

阪神・淡路大震災を経験した西宮市の対応は、専門家からみてどうだったでしょうか?

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防災というのは普遍性と特殊性の両方が絡み合っているところがあるので、一般的な原則はどこの地域も同じですが、一方で、地域それぞれの特徴や特質を持っています。特徴を踏まえた防災のあり方というのは地域によって違い、大都会と山間部でも当然異なります。実は、西宮と芦屋でも違うんですよね。阪神・淡路大震災後、西宮は大阪に近いというとても有利な条件にあり、その立地のメリットを生かした形で復興を進めていきました。高層住宅をどんどん造って、人口を早く戻した。地の利を生かしながら復興を進め、新しい文化都市の顔を作ろうとしたんですね。そういった意味で関西学院大学を始めとした大学の存在はとても大きく、さらに兵庫県立芸術文化センターもできました。非常に大変だった中でもメリットを生かし、新たな文化拠点に向けての目標を持っていたことは、西宮の復興で良かったところだと思うんですよ。復興と合わせて阪神間の都市で新しく防災拠点を作ったのは西宮であり、防災の取り組みは被災した自治体の中で特に優れていると思います。震災の教訓を踏まえ、安全なまちを作ることが自治体の使命だということを意識をして防災拠点をしっかり作ったのは素晴らしいですね。

西宮は市民力があるまちなので、防災士の資格を取って頑張っている人は結構います。震災の経験も含め、積極的に防災を進めようという人が他の都市よりも多いのかなと感じています。

今後も起こり得るさまざまな災害に備え、大事なことは何でしょうか?

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地域の防災を進めていく際、「土の人、風の人、水の人、太陽の人」と例えられる、4種類の人材がいないといけません。土の人は住民自身であり、土壌が豊かじゃないといけない。住民自身がリテラシーを持った豊かな人にならないといけないということです。 そこに風の人が種を落とす。いろいろな情報や知識を持ってきたり、世界中の経験を伝えたりする外からの支援者です。種から芽が出たら、水の人が最も重要であり、消防団員や防災士、地域に密着した保健師さんや看護師さんといった専門家です。最後に、太陽の人は行政で、日差しを投げかけて市民を支援する役目です。この4種の人材がいて、地域防災が成り立つんですね。そのためにも、地域のコミュニティに密着した専門家をちゃんと育成する仕組み作りが、今後の災害に備えるための西宮市の重要な役割ではないでしょうか。

災害はどんどん進化しています。だから、防災も進化していかないといけないのです。今までと同じような自主防災とかコミュニティ防災とか言っていたら、残念ながら何の役にも立ちません。 今後、何倍も大きな地震が起きるのであれば、それを乗り越えられる何倍も強いコミュニティを作らないといけないのです。つまり、コミュニティのあり方も防災のあり方として考えなければいけないのです。

これまでは、ボンド型のコミュニティ防災と言って、一時的にボンドでくっつけたような防災に例えていました。そこに住んでいるから、やむなく防災をやっていた。このようなボンド型では、いつ剥がれて崩壊してしまうかわかりません。
これからはブリッジ型防災と言い、そこに住んでいる人たちだけではなく、その地域に関わる組織や団体、学校や商店街など、全てが手をつなぎ合って取り組む防災が重要です。いろいろな人たちが何重にも関わり合いを持つ。 自主防災ではなく、地域防災に変えないといけないと強く思います。

さらに、新しい技術と古い技術を組み合わせることも必要だと思います。新しい技術だけに変えてしまうとそれも限界があるんです。情報技術の中では、例えば安否確認をSNSで行うのはいいですね。地震後に問題となるのは、地域の人々がバラバラになってしまい、誰がどこに行ったのかわからなくなってしまうことです。そういった問題も、SNSなどを活用してそれぞれの居場所を確認できれば解決できるはずです。あるいは地震直後の被災状況とか、SNSに限らずドローンなどの先進機器を生かすことも必要だと思います。あれこれ口で言っているだけでなく、避難訓練などで積極的に活用する練習をしなければいけません。高齢者でも最近はほとんどの方がスマホを持っているので、誰でも簡単に使える防災アプリの開発も必要ですね。

危機管理センターで防災士に講義している様子
危機管理センターで防災士に講義

これまでお話したようなさまざまな課題について、コミュニティーと行政が連携して西宮方式のハイレベルな防災スタイル作りにぜひ挑戦してほしいですね。住民の生活意識、知的レベルが高い西宮なら、きっとできると信じています。

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Profile | 室崎 益輝(神戸大学・兵庫県立大学 名誉教授)

1967年、京都大学工学部建築学科卒業。2022年より減災環境デザイン室顧問。日本火災学会賞、防災功労者内閣総理大臣表彰などを受賞。著書に「災害に向き合い、人間に寄り添う」「地域計画と防火」「危険都市の証言」など多数。阪神・淡路大震災の復興や防災・減災についての研究など幅広く活躍。西宮市の地域防災計画の見直しなどにも大きく貢献。