専門家インタビュー


interview
専門家インタビュー
文化・芸術
さまざまな文化・芸術と触れ合える西宮は、文化的に開かれたまち。
西宮市に関わる中で、どのような文化・芸術の風土を感じますか?

歴史的にも西宮はいろいろな芸術家を輩出しているまちでもあり、特に前衛芸術では「具体美術」と関連の深い芸術家もおられたりして、言葉では表現しにくいですが西宮ならではの芸術的風土は確かに感じます。西宮には大谷記念美術館があって、ここが文化・芸術的に重要な位置にあるのかなと思っています。展示室以外に庭もあり、ここがとてもいい雰囲気なんですよ。一般的な美術館のようなちょっと重々しい感じではなく、民家が改築された親しみやすい美術館なので、誰でも気軽に絵画と庭を楽しめる。私も高校生の時は、しばしば庭で物思いにふけったりしていたんですよ。結婚してからも子供と一緒に行って、美術館の庭を眺めたり、並んで作品を見たり。大人だけでなく子供も楽しめる美術館がある、そんな恵まれた環境も西宮ならではないでしょうか。
そして、西宮にはいたるところにギャラリーがあり、立派な兵庫県立芸術文化センターもあって、さまざまな文化・芸術に触れることができます。そういう意味でも、西宮は非常に文化的に開かれたまちなのではないでしょうか。
あとはやっぱり、自然が豊かなこともいいですね。海があって、山があって、川があって。さらに、阪神間モダニズムの面影があちらこちらに残っていて文化的にもお洒落な雰囲気が漂う。これぞ西宮ではないでしょうか。
今回私の作品を展示している市民ギャラリーは図書館等が併設された複合施設なので、いろいろな人が見に来てくれています。このように、市民の方々がとても身近に美術と関わりを持つことのできる環境もいいですね。
公的な場所であったり、ギャラリーであったり、年間に数回は西宮で展覧会に参加していますが、熱心に見てくれるお客さんはリピーターが結構多いようです。「毎回楽しみにしてるんですよ」と声をかけていただいたり。お気に入りの作家の名前もしっかり覚えていらっしゃいますよ。
また、美術だけでななく、音楽についても良い環境なのではないでしょうか。先日、プレラホールにコンサートを聴きに行きました。知っている曲があれば一緒に口ずさんでいたり、お客さんのノリもすごく良かったし、そういう文化芸術を楽しむとゆとりを西宮だからこそ味わえるのではないかなと思います。
今後の西宮市の文化・芸術に期待すること、発展させるための課題はなんでしょうか?

西宮市にはたくさんの芸術家の方がおられ、それぞれの分野でご活躍されていますが、美術に関して言うと、従来のアカデミックな表現・発表のスタイルと、新しい芸術とが適切な接点を見出せずにいるのではないかと思います。その原因の一つに高齢化をあげることができます。文化芸術の在り方がどんどん変わっていく中で、これまで通りの芸術の枠組みにこだわり、表現内容や方法・発表形式や組織の在り方などが継承されていくならば、若い人からすると違和感・抵抗感があるのではないでしょうか。ですから、経験を積んだ芸術家と若い世代の芸術家とが交流を深め互いに高め合っていけるような機会を増やしていくことが課題になると思っています。
その反面、高齢者が活動できる環境を整えることも大事だと思うんですよ。高齢化が進むなかで、若い人に照準を合わせていくことは必要ですが、高齢者はもちろん、社会的に不利益を被ってるような人たち、ハンディキャップのある人たち、または不登校の子供たちなどを文化芸術の世界に巻き込んでいく。いろいろな立場や世代の方を対象に、横断的・実践的に交流を深めていける、そんなアート活動が実現できれば、より現実的な人と人のつながりがきっと生まれるはずです。一緒に表現したり鑑賞したりするなど、芸術を共に楽しむことが一つのきっかけとなるのではないでしょうか。

西宮には西宮市文化振興ビジョンというのがあり、第2期のアクションプラン(後期)に入っています。これは、文化・芸術を広く、深く浸透させることで、市民の芸術に対する愛着を高めることを目標としていて、私も関わっています。たくさんの芸術を見たり聞いたりできる体験の場を持続して提供し、「芸術との深まり」を支援する施策を練っています。自ら文化・芸術を体験しながら、みんながつながっていく。そういう場を作っていけたらと思います。そのためには、学校とか病院とか、さまざまな施設が関わり芸術と接する機会を増やしていくことも大事です。
しかし活動を続けるには、金銭的な問題があります。解決策の一つとして、企業との連携も必要ではないでしょうか。例えば、西宮の作家が創作した良質なアートを商品ラベルに採用してもらうとか。文化的な価値を企業に認めてもらい、共有していくことで、西宮の文化・芸術をもっと発展させていけるといいですね。

Profile | 初田 隆(西宮美術協会 代表)
洋画家。西宮市出身。兵庫教育大学名誉教授。西宮美術協会代表のほか、西宮市文化まちづくり推進委員会会長、西宮芸術文化協会代表運営委員を務める傍ら、近年は「核の時代」をテーマに作品づくりを行うなど、平和・貧困・政治・環境を意識しながら幅広い視点・経験で創作活動を行う芸術家である。