専門家インタビュー

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教育

教育と福祉の融合、データの活用でさらに質の高い教育環境へ。

西宮市の教育環境について感じること、教育の質を高めるためにすべきことは?

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西宮市は、文教住宅都市として長年の誇るべき歴史があり、とても教育を大事にしてきたと思っています。市民の教育に対する関心も高く、文教住宅都市にふさわしい質の高い教育を提供するため、熱心に取り組んでいる教職員もたくさんいると感じています。
これは西宮市だけに限ったことではありませんが、子供たちを取り巻く環境にはさまざまな困りごとや課題があります。例えば家庭環境においては、貧困や、ひとり親などの課題がある中で、学校教育だけでそれらを解決していくことは困難だと考えています。私も中学校の校長を3年間務めた経験がありますが、例えば虐待の問題や、家庭環境が複雑で十分な養育が温かい家庭の中で行われていないといったケースに最も早く気づくのは、やはり学校の先生だと感じています。近隣の方や行政の福祉担当者が気づくこともありますが、毎日子供たちと顔を合わせ、変化を敏感に察知できるのは学校の先生だからです。

実際に、学校の先生が最初に気づき、福祉の支援へとつなげていくことは少なくありません。しかし、支援を必要とする子供たちが増えてくると、行政の福祉部門だけで一人ひとりに細やかに対応することは難しくなります。
そのような状況の中で、学校の先生方の協力がなければ、家庭への適切なアプローチや子供たちへの支援を十分に行うことができないという課題があります。まさに学校は福祉の最前線にあると言えますし、先生方が教育だけでなく福祉の面でも多くの労力を費やしていることを実感しています。
学校は教育機関であると同時に、福祉的な役割も担っています。このような役割は今後ますます重要になっていくと考えており、そのためには教育と福祉の融合(連携)が効果的であり、まだまだ発展途上ではありますが、子供と家庭の情報をきちんと共有しながら徐々に進めていく必要があると考えています。

徐々にではありますが、教育と福祉の連携は確実に進んできていると感じています。福祉の分野の方々にとっても、子供の異変を最初に気づくのは学校の先生であるという認識は強く、学校から得られる情報の重要性を十分に理解していただいています。そのため、むしろ積極的に学校と連携していこうという姿勢で取り組まれていると感じています。教育委員会としても、福祉と二人三脚で子供たちを支えていけることは、大変心強いことだと考えています。

これまでの教育からこれからの教育へ、ICTをどのように活用していくのでしょうか?

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教育というと、経験や肌感覚など、そういったところだけで子供の様子や状態を把握してしまうことがあります。それによって的確に状態を把握できればいいのですが、必ずしもそうではありません。やはり人間ですから、この子は元気で活発だから問題ないと思っていたら、実は全然そうではなかった、といったケースがあります。さらに、保護者からの情報が十分に得られなかったり、昔のように地域全体で子供を見守る機会が少なくなっていることもあり、先生が子供たちの抱える問題をいち早く察知することが難しくなってきています。
西宮市の小中学校などでは現在、一人に一台タブレットを貸し出し、授業や先生とのコミュニケーションに活用されています。私は、そこに蓄積されたデータをもっと有効に活用していくべきだと考えています。子供たちの状態をできるだけ正確に把握するためには、データの活用が有効です。
例えば学力面では、どの問題が解けていないのか、どのような誤解をしているのかといった点をデータを用いて細かく分析することができます。また、子供たちが抱える悩みや困りごとについても、タブレットを活用することで、心の健康状態を把握することが可能になっています。そのための専用アプリを導入しており、日々の状況を継続的に確認することもできます。こうしたデータを蓄積し活用することで、一人ひとりの様子をより的確に把握することができるため、積極的に活用していくべきではないでしょうか。
私たち教育委員会における今後の大きな課題の一つは、教育現場に蓄積されたデータを集約・分析して先生方にフィードバックし、肌感覚だけに頼らず、子供たちの状態を的確に把握できる環境を整えることだと考えています。

西宮市の教育について今後の展望と、子供たちに期待することは何ですか?

私の仕事に関して言いますと、西宮の良さは教育熱心な家庭が多いことではないでしょうか。また、自分の知識や経験を活かして子供たちのために協力したい、と考えておられる地域の方もたくさんいらっしゃるようです。こうしたとてもいい環境にあるので、そこをうまく活用させていただいて、単に子供たちの知識を増やすとか、テストの点数を上げるとかではなく、将来に繋がるような質の高い教育ができればと思っています。豊かな将来に向けて、子供たちが大きな夢や目標を持てるように。

小学校1年生からタブレット端末を使った学習の様子
小学校1年生からタブレット端末を使った学習を実施

もちろん勉強はとても大事なことですが、西宮はとても自然が豊かなところなので、心身共に豊かで健やかな人間に育てるための教育のあり方を考えることも、私たちの展望であり、課題だと考えています。

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Profile | 藤岡 謙一 (西宮市教育委員会 教育長)

2024年4月、文部科学省より西宮市に出向し教育長就任。文部科学省では主に初等中等教育の教育行政を担当し、その間には岐阜県教育委員会への出向のほか、横浜市立旭中学校長、在中国日本国大使館参事官などを歴任。